はじめに
E-ZEUSII(イーゼウスツー)は、さまざまな赤道儀に使えるモータードライブ装置です。ステッピングモーター特有の振動や脱調といった欠点を克服した安定した動作で、設定をユーザーの好みにカスタマイズできるなどの特長があります。以前から「ステラナビゲータ」や「ステラショット」でE-ZEUSIIを制御できないかというお問合せを多くいただいていたのですが、このたびE-ZEUSIIのメーカーである(株)輝星さんより実機をお借りすることができましたので、使い方をまとめてみました。
望遠鏡制御について
最初に、ステラシリーズでの望遠鏡の接続方法についてまとめておきます。ステラシリーズでは、対象の機器やその使用環境に応じて、次の3種類の方法で望遠鏡などの機器を接続・制御することができます。
- ネイティブ制御(PC直結)
各機器専用の制御コマンドを、アプリケーションが直接RS232-CやLANを使って機器に送信しながら制御を行います。専用のケーブルで直接接続しているうえに、他のソフトウェアの影響を受けることがないため、安定した動作が期待できます。 - ASCOMによる制御(PC直結)
アプリケーションが、ASCOMと呼ばれるソフトウェア群を介して機器を制御します。上記の「ネイティブ制御」ができない機器であっても、ASCOMドライバが公開されていれば制御することができます。 - GearBoxによる制御
望遠鏡やカメラなどの機材を、GearBoxと呼ばれるアストロアーツ製の機器に接続し、このGearBoxからWi-FiまたはLANを使ってPCに接続する方法です。観測機材とPCの間を無線にしたい場合や、LANケーブル1本で済ませたい場合に便利です。
今回解説するE-ZEUSIIをステラシリーズで制御する場合には、上記のうち「ASCOMによる制御」を使います。
ASCOMについて
ASCOMは、赤道儀はもちろんカメラやフォーカサーのような天文用の機材をいろいろなソフトウェアで動かせるようにする規格です。このASCOMの規格に沿った多くのソフトウェアがインターネット上で配布されています。
ASCOMを使うには、最初に「ASCOM Platform」というソフトウェアをインストールします。これに加えて、自分が使う機材用に作られた「ASCOMドライバ」と呼ばれるソフトウェアをインストールすることで、それぞれの機器の制御が可能になります。
「ステラナビゲータ」や「ステラショット」もASCOMの規格に沿った機器の制御が可能であり、ASCOMドライバの配布されている機材を制御できます。このように幅広い機器の制御ができるという長所がある反面、稀にドライバの動作が不安定だったりすることもあって、できれば「ネイティブ制御」を使っていただいた方が安定して制御できると考えています。
ASCOM Platformのインストール
最初に、ASCOMで制御を行うにあたって必ず必要になるソフトウェア「ASCOM Platform」をダウンロード・インストールします。
WEBブラウザでASCOMのサイトを開き、右上にある[Download」ボタンをクリックしてセットアッププログラムをダウンロードします。この原稿を書いている2024年6月現在の最新版はバージョン6.6SP2です。
ダウンロードしたら、これをダブルクリックしてセットアップを行ってください。
セットアップが完了したら、シミュレータを使って正しくインストールできているかを確認してみましょう。「ステラショット3」を起動し、[設定]タブの「望遠鏡(赤道儀)」にある[選択]ボタンをクリックします。ここで表示される「望遠鏡選択」ダイアログの「接続」では[PC直結]を選び、「メーカー」を「ASCOM」、「機種」も「ASCOM」を選んで[OK]ボタンをクリックして決定します。
次に「望遠鏡(赤道儀)」の[接続]ボタンを押すと、「ASCOM Telescope Chooser」というダイアログが表示されます。ここで望遠鏡として「Simulator」を選択します。
さらに、[Properties]ボタンをクリックして「ASCOM Telescope Simulator Setup」というダイアログを開き、[Auto Unpark/Track on Start]チェックボックスをオンにして[OK]ボタンを押し、ダイアログを閉じます。
次いで「ASCOM Telescope Chooser」で[OK]ボタンをクリックしてダイアログを閉じます。
これで望遠鏡の[接続]ボタンの赤いランプが点灯し、シミュレータが接続されたことがわかります。[望遠鏡]タブに切り替えて「微動」の欄にある上・下・左・右のボタンを押すと、星図中の望遠鏡位置マークが移動します。また、星図中で天体をクリックして「導入」ボタンを押すと、星図中を望遠鏡位置マークが移動して天体が導入される様子をシミュレーションで見ることができます。
E-ZEUSII ASCOMドライバのインストール
次に、星羊翁さんが開発されたE-ZEUSII用のASCOMドライバをインストールします。このドライバは次のWEBページでダウンロードできます。
ASCOM Local Server Telescope Driver for E-ZEUS Ver. 3.00
執筆時点の最新バージョンは、「ASCOM Local Server Telescope Driver for E-ZEUS Ver. 3.00」で、2024年4月29日に公開されたものです。
このページによれば、まず「.NET Framework4.7.2以上」が必要とのこと、すでにPCにはインストールされているかもしれませんが、念のためダウンロードして最新版のインストーラを実行しておきます。
最新バージョン(現時点では4.8.1)をクリックして、「.NET Framework 4.8.1 ランタイムのダウンロード 」をクリックすると、セットアッププログラムがダウンロードできますので、これを実行してインストールします。
次に「ASCOM Platform6.2以上が必要」とありますが、これはさきほどインストールして動作の確認も済ませていますので、ここでは飛ばします。
つづいて「E-ZEUS Telescope Driver Ver. 3.00」をクリックすると、「ezeus_v300.zip」というファイルがダウンロードできます。これを展開し、「EZEUS Setup.exe」というセットアッププログラムをダブルクリックして実行します。このとき、「WindowsによってPCが保護されました」と表示されることがありますが、「詳細情報」をクリックすると「実行」ボタンが現れるので、これをクリックして実行します。
インストールが完了すれば準備は完了です。
E-ZEUSIIを接続する
E-ZEUSIIは、赤道儀によってそれぞれにカスタマイズされており、外見もそれぞれに異なります。アマチュア用の赤道儀はもちろん、大型の望遠鏡にも採用されています。
機材は、本体、ハンドコントローラ、ACアダプター、それと赤道儀本体に設置された赤経・赤緯それぞれのモーターで構成されており、本体からはUSBケーブルでPCに接続するようになっています。写真は、タカハシNJPに取り付けた両軸のモーターと本体に接続するためのケーブルです。
ハンドコントローラには、中速および高速微動用の赤経・赤緯それぞれの跳ね返りスイッチと、四方向のガイド用低速微動ボタンがついています。これらの微動速度は、それぞれユーザーの好みに合わせてカスタマイズすることもできます。また、二種類のバックラッシュ補正とそのON/OFFを設定することができます。もちろんオートガイダーとの接続も可能です。本体からは、2本のケーブルで赤経・赤緯それぞれのモータに接続します。
ステラショット3でE-ZEUSIIを使ってみよう
望遠鏡を接続したら、USBケーブルをPCに接続してE-ZEUSIIの電源スイッチを入れます。最初に接続したときには、自動的にUSBシリアルドライバーがインストールされます。ドライバーのインストールが完了したら、デバイスマネージャーでCOMポートを確認しておきましょう。今回は「COM3」と表示されていました。
ステラショット3を起動します。先ほどASCOMの望遠鏡シミュレータを接続したので、すでに望遠鏡としてASCOMが選択されています。「接続」ボタンを押すと、先ほどと同様に「ASCOM Telescope Chooser」というダイアログが表示されます。今回はシミュレータではなく、「ASCOM Telescope Driver for E-ZEUS」を選択します。
ここで、「Properties…」ボタンを押して、設定ダイアログを表示します。ここで、先ほど確認したCOMポートを選択し、観測地の経緯度などを入力してOKボタンを押します。続いて「ASCOM Telescope Chooser」ダイアログもOKボタンで閉じましょう。
これで準備は完了です。あとはいつものように極軸を合わせたら、ステラショット3で天体の撮影を楽しんでください。
今回は長くなってしまったのでここまでですが、先日、夜空の下で実際に「ステラショット3」を使ってオートガイド撮影まで実施してもらったところ、非常にスムーズに動作したという報告をいただきました。
「ステラショット3」は、無料で30日間使える「試用版」をダウンロードしてお使いいただくこともできます。E-ZEUSIIを使える環境をお持ちの方は、ぜひ一度お試しください。