ステラナビゲータで見る天動説

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事業企画部のひろせです。

私は天文学の歴史を勉強しており、このブログでこの間までは星の名前について記事を書き続けていました(天文学史のススメ)。今回は少し話題を変えてみます。題して「ステラナビゲータで見る天動説」。

最新の天文計算法にもとづくステラナビゲータでは、もちろん地球も回っているわけですが、そこであえて地球を止めたらどうなるか、見てみようというのが今回の趣旨です。

「地球の運動」と言えば……

ところで皆さま、『チ。ー地球の運動についてー』はもう読まれたでしょうか。このマンガは15世紀のヨーロッパを舞台に、地動説の研究と拡散に情熱を燃やす人々を描いたフィクションです。最終刊が6月に出たばかりでして、アストロアーツ社内では「ハマった!」という声が相次いでおります。

実は私、作者の魚豊さんから『チ。』のために取材を受けたことがありまして、その縁もあって逆に星ナビで魚豊さんにインタビューしたりもしてます。だからこそ言えるのですが、この物語は科学や現実の歴史に関する深い洞察の上に築かれていますし、そうでなければにじみ出てこないような凄みがあります。

この『チ。』を読んでからふと思った疑問が、この記事のきっかけです。

美しい?美しくない?地球中心説の惑星軌道

ステラナビゲータは最新の天文学に関する知識を元に天体の位置を計算し、星図を表示します。

地球上の各地から見た星空を再現できるのですが、その地球を飛び出して色々な視点から宇宙を眺められるのがステラナビゲータの強みです。たとえばこちらの「太陽系」表示。

ステラナビゲータの「太陽系」モードで火星までの惑星とその軌道を描画。各天体の大きさは実際よりも強調した。

太陽の周りで回転する惑星たちの動きを再現します。

そう、太陽の周り。地球も回ってます。

ここでふと考えました。太陽ではなく地球の動きを固定して、天動説の動きを再現できないかな、と。太陽を中心に据えれば整然とした惑星の動きも、地球を中心にするとこんなにゴチャゴチャします。

地球を固定した場合の太陽、水星、金星の軌跡。ブリタニカ大百科初版(1771年)の「天文学」項に掲載された図。『チ。』で描かれている図も、おそらくこれが元ネタ。(掲載元:Wikimedia Commons

こちらは地球を中心に固定した場合に、太陽・水星・金星がそれぞれ一定期間の間にたどる軌跡を描いたものです。『チ。』でも天文学を学ぶ登場人物たちがこの図を描き(第1集p.39など)、「美しくない」と評しています。そうして「美しい宇宙」を追求すると地動説に至る……という話なのですが。

正直、私はこの図を「美しい」と思っちゃったんですよね。地球を中心にするとこんな複雑な幾何学模様が描けるのかと。太陽を中心にしたらもっとシンプルになるとわかっているからこそ、そんな余裕のあることが言えるのかもしれませんが。

ステラナビゲータに禁じられた?天動説

さて、アリストテレスやプトレマイオスになったつもりで、地球に止まってもらいましょう。ステラナビゲータで天体を星図の中央に据えたいときは、右クリックして「中央固定」を有効にするのが簡単な方法です。

が、しかし。この方法はうまくいきませんでした。一見、地球が星図の中央に固定されてうまくいっているように見えるのですが、時間を進めると太陽の位置も固定されていることがわかります。

地球と太陽の両方を無理矢理固定して他の惑星を動かそうとするので、当初思い描いていたような図は描けません。ステラナビゲータさんもフベルトやラファウ(『チ。』の登場人物)のように天動説に抗おうとするのか……!

しかし諦めるにはまだ早いのです。ステラナビゲータには宇宙を自在に飛び回る「フライトモード」があります。このモードでは天体を指定して、そこへ向けて前進するか後退することによって移動できます。そしてその間、天体は常に視野の中心にいます。太陽が中心にいるのを前提としたような「太陽系」表示とは違って、これなら太陽も回ってくれるかも?

おお、うまくいきました。ところがここで致命的な問題が発覚。フライトモードでは「光跡残し」ができません!

そう、惑星が描く軌跡を表示するには、単にアニメーションさせるだけでなく、動いた跡を残し続けなければいけません。フライトモードは天体を動かすのではなくて自分が動き回るのがメインだからなのか、光跡残しができないようです。

地球を止めて太陽を動かすコマンド

仕方ないのでちょっとした「裏技」を試みました。

ステラナビゲータには、プラネタリウム番組を記述したりするための言語「ステラトーク」が用意されています(マニュアルpdfはこちら)。通常ステラトークは拡張子「.sns」がつく設定ファイルに記述してステラナビゲータにまとめて読み込ませるのですが、ステラナビゲータの実行中にコマンドを一行ずつ命令することもできます。上級者向けの機能にはなってしまいますが、通常のメニューなどからの操作では実現できない、あるいはとても手間がかかる設定がコマンド1つで実現できます。

ステラトークのコマンドを入力するには「設定」メニューから「コマンド入力」を選択するか、Ctrlとスペースを同時に押します。今回は、表示形式を「太陽系」(スタイルは「フライト」ではなく「標準」)にした上で、こちらのコマンドを入力しました。

View.FlightTarget.Object = Solar.Planet.Earth

これは「フライトの目標天体を地球にしますよ」というコマンドで、かなり乱暴に言えば、標準の太陽系表示形式のままで、中心天体の仕様だけはフライトモードと同じになるようです。つまり、光跡残しはできるし、太陽も動く!

【注】変則的な設定なので、このまま他の操作をすると予期せぬ動作が生じるおそれがあります。シミュレーション終了後は必ず「初期化」しておきましょう。

ステラナビゲータで2022年2月から2030年2月までの地球を中心とした惑星の動きを1日刻みでアニメーションし、光跡を残した。キャプチャした画面を4倍速で再生。

すばらしい。見る人によっては美しくないのかもしれませんが、私はタウマゼインを感じちゃいますね。

※タウマゼイン…古代ギリシアの哲学で、知的探求の動機とされた概念。直訳すると「驚き」。
この世の美しさに痺れる肉体のこと。そして、それに近づきたいと願う精神のこと。つまり――「?」と、感じること。(『チ。』第8集 p.164)

おそらく、できあがった図を見て皆さんはいろいろな「?」を感じてるのではないでしょうか。それは多分、いつもの太陽中心の軌道図を見ていただけではなかなかたどり着かない疑問や気づきです。こうしたシミュレーションができるのはステラナビゲータならではなので、是非いろいろと遊んで楽しんで学んでください。


今回はステラトークという少し上級者向けの機能を使いましたが、基本的な操作でもできることはたくさんあります。また、機能が限定されたステラナビゲータLiteでも大抵のことはできます。

8月に発売した「ステラナビゲータ活用集 シミュレーションでわかる宇宙と星空の動き」には天文の楽しさと不思議が詰まったシミュレーションを29編収録しているので、ぜひお試しください。

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