紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)が話題ですね。9月下旬には明け方の東の空に、10月中旬からは夕方の西の空に、肉眼等級で見えると予想されています。事前の準備はしっかりしておきたいもの。情報は、20ページ大特集の「星ナビ」2024年10月号をぜひチェックしてください。
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観望の準備や撮影、画像処理にはアストロアーツの天文ソフト、スマートフォンのアプリもお勧めですよ。
さて、歴史(といってもここ50年くらい)を振り返ってみると、話題になったものの様々な理由によって「思ったほどには見えなかった」彗星もいろいろとあります。
某書籍シリーズのように「残念な~」とまでは言いたくありませんが、正直なところ「もうちょっと見たかったな」と思わされた彗星、皆さんにも心当たりがあるのではないでしょうか。今回の記事では、そんな彗星たちを振り返ります。
傷をえぐるというか感傷に浸るというか…複雑な思いで進めていきましょう
【予想は難しい】前評判どおりには明るくならなかった彗星たち
彗星が発見されると、発見時の明るさとその距離、運動の様子から、「太陽や地球に近づいてきたらどのくらいの明るさになりそうだ」という予想がされます。予想どおりに明るくなってくれれば万々歳なわけですが、なかなかそのとおりにはいきません。たとえば「発見時は突発的に明るくなっていただけで、本来(真の明るさ)はそれほどでもない」ような場合です。
代表例は、1973年3月に発見された「コホウテク彗星(C/1973 E1; Kohoutek)」でしょう。当時「20世紀最大の彗星」との噂もあったそうで、実際に0等級の観測記録もあるものの、見やすい時期には3~4等級どまりだったようです。3等級でも明るいと思いますけどね。
「~そうで」「~ようです」…生まれる前のことなんです
また、1989年12月に発見された「オースティン彗星(C/1989 X1; Austin)」も、最大で1等級になると予想されましたが、最盛期で4~5等級どまりでした。年季の入った天文ファンの方々なら、これら2つの彗星にはちょっとした「別名」が付けられたことを覚えていらっしゃるかもしれません。
別名は記しません(人の名前で遊ぶのはよろしくありません)
時は流れ21世紀、2001年8月に発見された「ニート彗星(C/2001 Q4; NEAT)」と2002年10月に発見された「リニア彗星(C/2002 T7; LINEAR)」が、ともに2等級くらいまで明るくなって2004年の春の宵空を飾ると予想されました。「2大彗星」と呼んで、星ナビで5か月連続で大々的に取り上げたり、条件の良い南半球への観測ツアーが催行されたりしましたが、結果は3~4等級でした。これでもじゅうぶん明るいと思います(再)が、当初の見込みほどではなかった、ということですね。
7月号で「3大彗星」となっているのは、同時期にまずまず明るくなった「ブラッドフィールド彗星(C/2004 F4; Bradfield)」が入っています
こうした経験を重ねるうち、天文ファンは「よく訓練されて」しまい、「期待はするけど期待しすぎない」ようになってきたと感じます。それだけ「予想が難しい」と認識されてきたということでもあるでしょう。この状況は流星群の予想も似ているなと思います。
【悪いほうの予想が当たる】悲運の彗星、アイソン
2大彗星から約10年後の2012年9月に発見された「アイソン彗星(C/2012 S1; ISON)」は、翌年の秋に非常に明るくなると予想されました。
日本から見られるものとしては久しぶりの大彗星候補の出現で天文ファンは大いに盛り上がり、アストロアーツでは星ナビの特集だけでなくムックやアプリ、さらには「タオル」まで製作する力の入れようでした。
さて、アイソン彗星は太陽最接近時に太陽表面から110万kmという至近距離を通過することも、発見当初からわかっていました。そのため、最接近したときに熱や重力によって崩壊してしまう可能性も指摘されていました。「アイソン彗星は核が大きいから、崩壊することなく見事な姿を見せてくれるだろう」という願望を込めて、日々の推移を見守り、そして…
こっちの予想は、当たってしまうんですよね。上手くいかないものです。
ギリシア神話の「イカロス」のストーリーを想像した方も多かったのではないでしょうか
【悪条件には勝てない】予想どおりに明るくなっても、見えないものもある
ここまでは「事前の予想ほどには明るくならなかった」彗星や「崩壊シナリオという予想が当たってしまった」彗星をピックアップしてきましたが、予想どおりに明るくなっても見えなかったという彗星たちもあります。
その筆頭は、2006年8月に発見された「マクノート彗星(C/2006 P1; McNaught)」でしょう。発見から半年後の2007年1月にマイナス5等級(金星よりも明るい !)にも達した、現時点では21世紀で最大の彗星です。南半球では、頭部が明るく輝く様子と扇状に広がった長い尾が夕空に見られました。
「南半球では」。
日本ではどうだったかというと、「白昼に望遠鏡で見えた」とか「夕方に尾の先だけが地平線上に見えた」という逸話や記録が残っています。予想どおりの大彗星であったことは間違いないのですが、「大彗星らしい姿が、緯度の関係で日本では見えなかった」というだけです。
見たかったなあ…とくに尾がすごかったですね
近年では、2020年3月に発見された「ネオワイズ彗星(C/2020 F3; NEOWISE)」彗星が、7月に0等級まで「予想どおりに」明るくなりました。北半球では1997年春の「ヘール・ボップ彗星(C/1995 O1; Hale-Bopp)」以来の「きわめて明るい」彗星となり、日本以外では長く伸びた見事な尾などがとらえられました。
「日本以外では」。
7月といえば日本の広い地域で梅雨の時季。しかもこの年は梅雨明けが遅れたため、晴れ間に恵まれなかったのです。まったく見えなかったわけではないし、梅雨のない北海道などでは立派な姿が撮影されもしましたが、多くの人が大彗星として楽しめた、というわけではありませんでした。コロナ禍で心理的な行動制限があったことも一因でしょう。
期待どおりに明るく長い尾を伸ばす彗星であったとしても、いろいろな条件が揃わないと見られない。彗星に限った話ではありませんが(日食で晴れない、というのは最たる例)、天文ファンは運と精神力が強くなければいけないと、つくづく思い知らされます。
ときには財力も必要…
【悪い話ばかりではない】よく見えた彗星も、もちろんあります
ここまで「見えなかった」彗星ばかりをピックアップしてきましたが、「期待どおりに」すばらしい姿を楽しめた彗星も、もちろんたくさんあります。先に挙げたヘール・ボップ彗星や、1996年の春に明るくなり非常に長い尾を見せてくれた百武彗星(C/1996 B2; Hyakutake)などは、思い出に残っている方も多いことでしょう。2007年10月に急増光を見せたホームズ彗星(17P/Holmes)のように「嬉しいほうの予想外」が見られることもあります。
個人的にはこの百武彗星が見られなかった(ちょうどニュージーランド旅行中だった)ことが「まさに残念」でした。
【どうなる?】紫金山・アトラス彗星
今年はじめの時点では「マイナス等級まで明るくなる !」「日本から見やすい明るい彗星はとても久しぶり !」と楽しみしかなかった紫金山・アトラス彗星にも、「増光が停滞?」「崩壊する運命?」などなど不安な要素も聞こえてきています。いよいよ9月下旬には明け方の東の低空に姿を見せ始めるはずですが、果たして明るさは?尾の様子は?
「彗星はみずもの」と言われることがあります(彗星に水の氷が含まれていることと掛けた表現ですね)。「どうなるかがわからないところが魅力の一つ」というのは、やや強がりにも思えますが、そのくらいの心の余裕をもって、紫金山・アトラス彗星を楽しみたいものです。ワクワクしながら待ちましょう。
でも、やっぱり、明るくて尾の長い彗星が見たいよ !