概要
【更新】2024/09/18 17:06 検証結果の画像を追加しました。
弊社天体撮影ソフトウェア「ステラショット3」でZWO社のASIカメラを接続して撮影を行った際に、次のような現象・動作がみられるとの報告がX上で投稿されています。
- ステラショット3の撮影設定が、他の撮像ソフト(N.I.N.A.)の撮影結果に影響する
- ステラショット3は独自に撮影設定を保存しておらず、カメラ本体やドライバーの情報を不正に書き換えている
本記事では、これらの事項につきまして、現状弊社で確認している事実を踏まえまして見解をお伝えさせていただきます。
見解
- ステラショット3の撮影設定が、他の撮像ソフト(N.I.N.A.)の撮影結果に影響する
〈回答〉撮像ソフトを個別に使用していただく限り、影響はありません
- 通常、個別に撮像ソフトでカメラの接続を行って撮影する場合、他の撮像ソフトに影響は与えず、正常に撮影することができます。
- 同一のカメラにステラショット3とN.I.N.A.を同時に接続すると、後から変更された設定値がカメラに反映されます。また撮像ソフトの組み合わせによっては撮影異常が起きる可能性があります。
※このような同時接続は行わないようお願いいたします。
※ZWO純正ソフト「ASICAP」とN.I.N.A.の同時接続でASICAPのライブビュー異常が確認されました。
- ステラショット3は独自に撮影設定を保存しておらず、カメラ本体やドライバーの情報を不正に書き換えている
〈回答〉いいえ。ステラショット3はカメラ本体やドライバーの情報を不正に書き換えることはありません。
- ステラショット3ではASIカメラのSDK(※1)を経由して、仕様に則った制御を行っています
- ステラショット3がカメラ本体やドライバーの情報を直接書き換えているという事実はありません
- WBやゲイン、露出時間などの撮影設定は主に次の2箇所に保存されます。(※2)
- ステラショット3の保存用レジストリ
- (例)コンピューター\HKEY_CURRENT_USER\Software\AstroArts\GearBox\3.0\Camera\ZWO\ASI385MC
- ASIカメラSDKの保存用レジストリ
- (例)コンピューター\HKEY_CURRENT_USER\Software\ASI385MC
- ステラショット3の保存用レジストリ
「ステラショット3の保存用レジストリ」には、ステラショット3上で撮影設定を変更した際に
ステラショット3が設定値を保存します。
「ASIカメラSDKの保存用レジストリ」には、カメラが切断された際に、SDKが最終撮影時の設定値を保存します。各撮像ソフトは、カメラ接続時にこの値は使用せず、それぞれ自身の撮影設定値を都度SDKを通してカメラにセットします。これはステラショット3、ASICAP、ASIImg、N.I.N.A.などいずれの撮像ソフトにおきましても同様の動作となることを確認しています。
(※1)SDK…ここでは、ZWO社が提供するASIカメラを制御するための開発キットで、撮像ソフトがカメラの機能(撮影設定の変更や画像の取得など)を実現するために必要なプログラムが含まれるライブラリを指します。
(※2)Windows環境のみで確認しています。
ホワイトバランス設定を例に
「ステラショット3とN.I.N.A.を使用した際に、N.I.N.A.でホワイトバランス設定が意図したものとならない」という状況を考察します。
今回、N.I.N.A.がカメラに対してホワイトバランス設定を行うタイミングを調査しました。
N.I.N.A.はオープンソースソフトウェアのため、誰でもソースコードを確認することができます。
ステラショット3とN.I.N.A.のWB設定のタイミングは以下の通りとなります。
- ステラショット3
- カメラ接続時(「前回の設定値」または初めての接続時は「カメラのデフォルト値」)
- WB設定変更時(設定した値)
- N.I.N.A.
- カメラ接続時(R=50, B=50 固定)
※記事執筆時現在、N.I.N.A.にはWB設定を行うコントロールはありません
- カメラ接続時(R=50, B=50 固定)
すなわち、N.I.N.A.ではカメラを接続した際に1度のみホワイトバランス設定が行われるため、N.I.N.A.でカメラを接続したまま他の撮像ソフトでその後にホワイトバランス設定を変更すると、以下のような動作の順番となり、N.I.N.A.でカメラを切断・再接続しない限りその最新の値が適用されます。
- N.I.N.A.を起動、カメラを接続
→カメラ接続時にWB(R=50, B=50 固定)が設定される - N.I.N.A.を起動したまま、ステラショット3を起動、カメラを接続
→WB=ステラショット3の設定値(例:R=70, B=30)で上書きされる - N.I.N.A.で撮影
→WB=ステラショット3の設定値(例:R=70, B=30)のままで画像が保存される
繰り返しとなりますが、複数の撮像ソフトで同一のASIカメラに同時接続は行わないようお願いいたします。
検証環境・手順
最後に、弊社で実施した検証の環境・手順を簡単にまとめて記載します。
検証の目的
撮影設定、特にホワイトバランス(WB)に着目し、ステラショット3での設定内容がN.I.N.A.の撮影に影響する現象を確認すること。
検証環境
PC環境
CPU | 13th Gen Intel(R) Core(TM) i7-13700KF 3.40 GHz |
メモリ | 32.0 GB (31.8 GB 使用可能) |
OS | Windows 11 Pro |
OSバージョン | 23H2 |
OS ビルド | 22631.4169 |
撮像ソフト
ソフトウェア名 | バージョン |
ステラショット3 | 3.0hアップデータ |
N.I.N.A. | 3.1 HF2 |
ASICAP | 2.12.1 |
ASIImg | 1.12.1 |
カメラ
カメラ機種名 | ドライバー名 | ドライバー バージョン |
ZWO ASI294MC Pro | ZWO ASI294MC Pro Camera | 3.24.0.0 |
ZWO ASI385MC | ZWO ASI385MC Camera | 3.18.0.0 |
撮影設定
ゲイン | 露出時間(秒) | オフセット | ホワイトバランス | |
ステラショット3 | 100 | 0.01 | 1 | R=70, B=30 |
N.I.N.A. | 100 | 0.01 | 1 | R=50, B=50 |
検証手順
検証1:ステラショット3→N.I.N.A.への影響
- N.I.N.A.を起動、カメラに接続する
- N.I.N.A.で撮影を行い、画像を確認する
→N.I.N.A.の設定で撮影されていることを確認した - N.I.N.A.でカメラを切断し、N.I.N.A.を終了する
- ステラショット3を起動、カメラに接続する
- ステラショット3で撮影を行い、画像を確認する
→ステラショット3の設定で撮影されていることを確認した - ステラショット3でカメラを切断し、ステラショット3を終了する
- N.I.N.A.を起動、カメラに接続する
- N.I.N.A.で撮影を行い、画像を確認する
→N.I.N.A.の設定で撮影されていることを確認した - N.I.N.A.でカメラを切断し、N.I.N.A.を終了する
検証2:N.I.N.A.→ステラショット3への影響
検証1と同様の手順で、ステラショット3とN.I.N.A.を入れ替えて実施しました。
その結果、検証2でも全ての画像が各撮像ソフトのホワイトバランス設定通りに撮影されていることを確認しました。
検証3:ステラショット3→N.I.N.A.への影響(同時接続時)
- N.I.N.A.を起動、カメラに接続する
- N.I.N.A.で撮影を行い、画像を確認する
→N.I.N.A.の設定で撮影されていることを確認した - N.I.N.A.でカメラの接続を維持する
- ステラショット3を起動、カメラに接続する
- ステラショット3で撮影を行い、画像を確認する
→ステラショット3の設定で撮影されていることを確認した - ステラショット3でカメラの接続を維持する
- N.I.N.A.が起動中、カメラに接続中であることを確認する
- N.I.N.A.で撮影を行い、画像を確認する
→ステラショット3の設定で撮影されていることを確認した - N.I.N.A.でカメラを切断し、N.I.N.A.を終了する
- ステラショット3でカメラを切断し、ステラショット3を終了する
検証4:N.I.N.A.→ステラショット3への影響(同時接続時)
検証4と同様の手順で、ステラショット3とN.I.N.A.を入れ替えて実施しました。
その結果、こちらも手順8の画像が最新のホワイトバランス設定を反映して撮影されていることを確認しました。
検証1、検証2では各撮像ソフトのホワイトバランス設定値が正しく適用されています。検証3、検証4では各撮像ソフトでカメラの接続を維持したままであるため、それぞれの撮影前に意図した撮影設定での初期化が行われず、3枚目の撮像ではいずれも最後に設定したホワイトバランスが適用されています。
※画像処理にはステライメージ9を使用しました。
このように、ZWO ASIカメラはステラショット3やN.I.N.A.など、複数の撮像ソフトで同時に接続することが可能ですが、弊社としては同時接続を推奨いたしません。
一般的に、1つのハードウェアを複数のソフトウェアから同時に制御することは推奨されていません。ハードウェアデバイスは通常、単一のソフトウェアからの指示に従うよう設計されています。複数のソフトウェアが同時に同じハードウェアにアクセスすると、以下の問題が発生する可能性があります。
- 競合による設定の上書き
- データの破損や損失
- ハードウェアの不安定な動作
- ソフトウェアのクラッシュやエラー
ステラショット3や他の撮像ソフトでカメラに接続する際には、必ず1つのソフトウェアのみを使用していただくようお願いいたします。複数のソフトを切り替えて使用する場合は、カメラを正しく切断し、再接続してからご利用いただきますようお願いいたします。