【手記】宙を編む~私、プラネタリウムを作ります~

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アストロアーツの上山です。この記事は、NHKドラマ「舟を編む」(※)にインスパイアされて書いたものです。原作を読んで胸を打たれてからもう数年が経ちましたが、ドラマを通して改めて感動をもらい、思わず筆を取りました。「言葉を編む」ように、「宙を編む」こともまた、意味と愛情のある行為だと感じています。

※三浦しをん作の長編小説。2012年本屋大賞受賞。玄武書房の辞書編集部を舞台に、主人公の馬締光也らが辞書「大渡海」の編纂にかける情熱を描く。2024年にはNHKで連続ドラマ化。


プラネタリウムは、宇宙という果てしない大海原を旅するための舟のようなものです。
空を見上げれば、そこには138億光年もの広がりを持つ宇宙が静かに、しかし確かに存在しています。
昼間は青空に隠れて見えない星々も、夜になるとその姿を現します。肉眼で見える星の中には、数百年、あるいは数百万年も前の光がようやく届いているものもあります。そのひとつひとつが、宇宙の歴史を語る語り部のように私たちの目に届くのです。

しかし、私たちは今なお、その星々の世界に直接足を踏み入れることはできません。宇宙旅行や宇宙移民という夢は語られて久しく、実際に宇宙へ行った人もいるけれど、それはまだほんの一部の人々に限られています。本当の意味で「宇宙へ出ていく」ことは、私たち一般の人間にとって、まだまだ遠い未来の話です。

でも、プラネタリウムなら違います。
そこでは時間や空間の制約を超え、今この瞬間に地球の裏側の空を見たり、はるか昔の宇宙へとさかのぼったりすることができるのです。光速の壁も、重力の制約もありません。星々の誕生の瞬間から、未来の星空まで――私たちは想像の翼を広げ、宇宙という大海を自由に航海することができるのです。

プラネタリウムの歴史はおよそ100年前、ドイツで機械式プラネタリウムが誕生したところから始まります。
それは、宇宙を科学の力で理解し、体系化できるという強い信念のもとに作られました。歯車やカム、レンズといったアナログな装置を駆使して、地上から見た天体の動きを正確に再現しようとするものでした。そこには、宇宙は巨大な時計のように規則正しく動いている、だからこそ我々にも理解できるはずだという希望がありました。

その時代の人々は、科学の進歩に強い期待を抱き、宇宙の全貌さえもやがては明らかになるだろうと信じていたのです。プラネタリウムは、その夢を形にした象徴でもありました。

そして時代は流れ、今はデジタルの時代。
コンピュータによって制御されるデジタルプラネタリウムが登場し、その表現力は飛躍的に向上しました。
機械的な制限から解き放たれたデジタル装置は、より高精度に天体の位置や運動をシミュレーションできるようになり、大気の屈折による星の浮き上がり現象や、彗星の尾の繊細な広がり、さらには地球外から見た星空の再現までも可能にしました。

デジタルならではの映像表現により、天体の光跡を時間を圧縮して描くことができたり、宇宙空間を飛び回るようなフライト映像を演出したりと、これまでの機械式プラネタリウムでは決して見せることのできなかった宇宙の姿を、観客に体感させることができるようになったのです。

さらに、物語性のある演出、音楽との連動など、多彩な演出手法が光学式の時代から用いられていましたが、デジタルの時代ではそれがさらに発展し、プラネタリウムは単なる「天体の再現装置」から、「宇宙を伝えるための表現空間」へと変貌を遂げています。


このように、デジタルプラネタリウムの世界には、まだまだ無限の可能性があります。
どうすればより多くの人に宇宙の魅力を伝えられるか、どうしたら子どもたちの目が輝くのか、大人たちが童心に返って星を見上げる瞬間を作れるのか――その工夫をする余地は、限りなく広がっています。

だからこそ、私はこの仕事を面白いと思い、ずっと続けてこられました。
どんなに難しいことがあっても、「もっと宇宙を伝えたい」という思いが背中を押してくれました。そして、何よりもたくさんの人の支えがあったからこそ、ここまで来られたのだと思っています。

一人ではできないことも、志を同じくする仲間がいればできる。
プラネタリウムをもっと面白くしたい、もっと深く宇宙を伝えたい。そんな思いを共有してくださる皆さんがいたから、今日まで歩んでこられました。

これからも、私はプラネタリウムを作り続けていきたいと思います。
そしてみなさんと一緒に、宇宙という壮大な布を、一つ一つの星の輝きを糸にして、美しく編んでいけたらと思っています。
「宙を編む」というこの言葉には、そんな願いが込められています。

P.S.
JPAで多くの方に「ブログを楽しみにしています」と声をかけていただき、本当に励みになっています。これからも、自分の言葉で、自分の宇宙を伝えていけるよう、書き続けていこうと思います。

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