「撮って出しではぼんやりしていた星雲」が、画像処理によってここまでドラマチックに変化します。

一見すると中心が明るすぎて階調がないように見える元画像の中にも、複雑なガスのうねりや色彩、生まれたての星々の情報が膨大に記録されています。本記事では、M42(オリオン座大星雲)を実際に処理しながら、ステライメージ10を使った画像処理の流れを解説します。
M42(オリオン座大星雲)とは?

オリオン座大星雲は、地球から約1300光年離れたところにある散光星雲です 。全天に数多く存在する星雲・星団の中でも代表格と呼べる存在であり、その広がりは満月の3倍ほどにも達します。
今まさに新しい恒星が誕生している「星形成領域」であるオリオン座大星雲には、以下のような特徴があります。
- 中心部に非常に明るい「トラペジウム」が存在する
- 複雑に入り組んだ暗黒星雲や分子雲が見られる
- 赤く輝く散光星雲と、青い反射星雲が混在している
そのため、
- 中心部の白飛びのコントロール
- 淡い周辺部を浮かび上がらせる
- 繊細な色彩の描き分け
など、画像処理の醍醐味と難しさが詰まった題材です。

今回は、あらかじめコンポジット(スタック)まで完了した画像を用いて、オリオン座大星雲をどのような考え方で処理していくのか、その過程を順を追って見ていきましょう。使用するのは、天体画像処理ソフトウェアの「ステライメージ10」です。
この記事の内容を、YouTube動画でもわかりやすく解説中です。
コンポジット直後の画像

まずはコンポジット直後で、まだレベル調整も行っていない状態の画像を見てみましょう。
中心部はかろうじて淡く見えていますが、周辺はほとんど真っ黒です。また、本来の鮮やかな色彩はありません。
しかし実際には、画像データの中にすべての情報が眠っています 。画像処理とは、「写っていないものを作る」のではなく、「記録されている情報を引き出す作業」なのです。
今回の画像処理の流れ
今回の処理は、大きく次の順番で進めました。
- レベル調整(素材の確認)
- カラーバランス調整(オートストレッチ)
- ノイズ低減
- デジタル現像(階調の圧縮)
- 淡い構造の強調(トーンカーブ)
- 色彩調整
- シャープ処理
レベル調整


まずは素材の状態を把握するためにレベル調整を行います。
ここでは、背景が平坦か、周辺減光が残っていないか、そして淡い構造がどこまで記録されているかを確認します。見栄えを整える前段階として、素材の「ポテンシャル」を見極める重要な工程です。
中心部は白飛びしても良いので、淡い部分が浮かび上がってくるように調整しましょう。
カラーバランス調整(オートストレッチ)


色彩は何段階かに分けて調整しますが、その第一歩は画像全体のカラーバランスを整えることです。ステライメージ10の「オートストレッチ」を使い、背景をニュートラルグレイ(RGBの偏りがない灰色)にしましょう。
ノイズ低減


強調処理を行う前に、あらかじめ輝度ノイズやカラーノイズを抑えておきます。
後の工程で淡い部分を持ち上げた際に、ノイズが一緒に浮き上がってくるのを防ぐためです。ただし、この段階で強くかけすぎるとディテールが失われるため、質感とのバランスに注意します。
デジタル現像(階調の圧縮)


星雲の中心部を見ると、完全に白く飛んでしまっています。そこでステライメージ10の「デジタル現像」を使って白飛び部分の階調を圧縮して、星雲の構造をより見せるようにします。
中心部のトラペジウム付近の構造を出しつつ、明るい部分から周辺へとなだらかな階調を作ります。また、「デジタル現像」のダイアログで「エッジ強調」も設定することで、ディテールを引き締めます。
淡い構造の強調(トーンカーブ)


トーンカーブを使い、背景に近い領域の淡い分子雲を強調します。
ここで重要なのは「やりすぎない」ことです。強調しすぎると中心部とのバランスが崩れ、ノイズも目立ち始めます。ハイライト部分の階調を維持しつつ、中間調を丁寧に持ち上げます。
ステライメージ10の「ピンポイント・トーンカーブ」では、特定の階調を選んで引き伸ばすことができます。この作例では、レベル調整を挟んで2度のピンポイント・トーンカーブを実行しました。
色彩調整

「マトリクス色彩補正」を使い、カメラのセンサーの特性を考慮して、色彩を自然に整えます。
さらに「Lab色彩調整」で、反射星雲の青色と、散光星雲の赤色をそれぞれ強調することで、星雲の構造がより立体的に感じられるようになります。
赤い部分は星間ガスが恒星の紫外線、X線で励起して自ら光を発していて、青い部分は、周囲の恒星の色を反射しています。


シャープ処理

「スマートマルチバンドシャープ」で暗黒帯などの微細な構造を引き締めます。強く掛けると星の周りに黒い縁が出るので注意しましょう。
ここまでの処理で、星雲だけでなく恒星も強調されてくるので、「スターシャープ」で肥大化した星を整えます。恒星は画像全体の見え方に大きく影響するので、強すぎる処理は避けます。
最後に再びレベル調整を行い、背景の締まり具合を微調整します。背景を真っ黒にせず、わずかな明るさを残すことで、宇宙の奥行きと分子雲の広がりが自然に表現されます。


完成画像

こうして完成したM42。画像の中には、1300光年先にある巨大な星形成領域のダイナミックな姿が写し出されています。

