ステラナビゲータで旧暦を計算してみた

この記事は約9分で読めます。
ひろせ
ひろせ

事業企画部のひろせです。今年度からはステラナビゲータのサポート係も務めております。
どうぞよろしくお願いします。

このブログではいつも昔の天文学をネタにしていますが、今回は「旧暦」のお話です。

ステラナビゲータ12のクイックアクセスバー

旧正月伝統的七夕中秋の名月といったように、伝統行事の多くは旧暦で祝われることをご存じの方も多いでしょう。日めくりカレンダーのように情報量の多いカレンダーなら、今日が旧暦で何月何日にあたるかも教えてくれます。もちろん、われらがステラナビゲータの「クイックアクセスバー」にも旧暦が表示されています(右図のピンクの枠内)。

しかし、この「旧暦」はどのように決まっているのでしょうか。

せっかくステラナビゲータでさまざまな天文シミュレーションができるので、クイックアクセスバーの情報を鵜呑みにせずに自分で旧暦を計算してみよう、というのが本記事の趣旨です。

※ここでいう「旧暦」は、1844年に制定されて1873年にグレゴリオ暦(現在も使われる暦)に置き換えられるまで使われた「天保暦」をベースに、現代天文学の手法で計算した暦を指します。天保暦以前の暦法では手法が変わってきてしまいますが、今回は考慮しません。
 ちなみにステラナビゲータでは1844年以前についても天保暦ベースで「旧暦」を計算しているので、当時実際に使われた暦と日付がずれている可能性があります。ご了承ください。

月と太陽のズレ

旧暦では「1か月=月の満ち欠けの1周期」であることはよく知られています。正確には、「新月=太陽と月が合」になった瞬間を含む日が、新しい1か月の1日目になるわけです。

問題は、新月(朔)と満月(望)の繰り返しで決まる「1か月」(朔望月)のサイクルと、地球から見た太陽の位置で決まり、季節の変化を伴う「1年」(太陽年)のサイクルがうまくそろわないことです。

1朔望月は平均するとおよそ29.5日なので、1年が12か月だということで29.5を12倍すると、結果は354日。1太陽年が365日あまりなので、11日間が足りません。つまり、1年が12朔望月だけしかないと、1年ごとに季節が11日ずれてしまうことになります。

このままでは、「昔は6月に梅雨入りしていたのに、最近は11月が梅雨の時期だ」みたいな妙なことになってしまいます。そこで、2,3年に1度、余分な1か月(閏月)を挿入することで、暦が季節よりも先に進んでしまうのを避けるわけです。

その閏月を入れるタイミングを計るために、二十四節気が使われました。

季節の基準、二十四節気

1太陽年を24個に分けたのが二十四節気です。なお、二十四節気というのは24に分かれた期間を指すこともあれば、各期間が始まる瞬間を指すこともあります。始まる瞬間は、太陽の通り道である黄道を24等分、つまり黄経15°ごとに区切って、それぞれの区切りを太陽が通過した瞬間で定義されます。

※「黄経って何だっけ」と思われた方は、ぜひ「天文の基礎知識」もご覧ください!

名称太陽黄経2023年の開始日  名称太陽黄経2023年の開始日
春分3月21日秋分180° 9月23日
清明15°4月5日寒露195°10月8日
穀雨30°4月20日霜降210°10月24日
立夏45°5月6日立冬225°11月8日
小満60°5月21日小雪240°11月22日
芒種75°6月6日大雪255°12月7日
夏至90°6月21日冬至270°12月22日
小暑105°7月7日小寒285° 1月6日
大暑120°7月23日大寒300° 1月20日
立秋135°8月8日立春315° 2月4日
処暑150°8月23日雨水330° 2月19日
白露165°9月8日啓蟄345° 3月6日
二十四節気の一覧。グレゴリオ暦での日付は年によって前後することがある

ステラナビゲータ12で見てみましょう。

ステラナビゲータの「全天」表示で黄道と天の赤道を表示

ここでは[表示形式]を[全天]にしました。そうすると天球が世界地図のように展開され、上に天の北極、下に天の南極が来て、真ん中を天の赤道が一直線に横切ります。ここに黄道を表示すると、赤道と2点で交差していることがわかります。

黄道が赤道と交差する点を太陽が通過する瞬間が「春分」および「秋分」。その中間で、赤道からもっとも北に離れた黄道上の点を通ると「夏至」、逆にもっとも南に離れた点を通ると「冬至」です。これらは二十四節気の名前にもなっています。

春分(黄経0°)から黄道上を東に15°進んだ点を太陽が通過した瞬間が「清明」。さらに15°進むと「穀雨」。このように黄道上に15°刻みで二十四節気に相当する太陽黄経が存在するのですが、これが実はステラナビゲータにも登録されています。

ステラナビゲータで二十四節気を可視化。太陽が春分(黄経0°)と清明(黄経15°)の間にいるので、今は春分の期間

正確には、「入梅(太陽黄経80°)」や「半夏生(太陽黄経100°)」といった雑節を含む「二十四節気および雑節の太陽黄経」として登録されていて、「星座」ダイアログの右側に存在します。

ステラナビゲータ12の「星座」ダイアログ

ここまで、なんだか難しそうに話してしまいましたが、要するに、二十四節気は太陽の動きだけで決まるので季節の変化と一致します(異常気象は別として)。朔望月がこの二十四節気とずれないように閏月で調整するのが、旧暦で重要なポイントです。

1. 二十四節気の基準は太陽の「視黄経」
黄経の基準となるのが、赤道と黄道の交点である春分点ですが、この春分点は歳差(地球の自転軸の首振り運動、2万6千年周期)や章動(月の引力による地球自転の変化、18.6年周期)などによって刻々と変化しています。
国立天文台が発表する二十四節気のタイミング(ステラナビゲータの計算とも一致)は、章動も含む全ての変化を考慮した、その瞬間の春分点にもとづく「視黄経」で計算しています。
一方、ステラナビゲータで表示する黄経の目盛は「平均黄経」です。これは、春分点を計算するときに歳差のみを考慮して、章動などの効果はならしたものです。ステラナビゲータの「天体情報パレット」では視黄経と平均黄経の両方を確認できます。
平均黄経で測った二十四節気のタイミングは、視黄経で見た場合と比べて数分以上ずれることがあります。

2. 太陽の位置は「地球の中心」で測る
太陽の黄経は、地球上のどこで見るかによって微妙に異なります。黄経の基準となる星座の星々に比べて、太陽は私たちにずっと近いところにあるからですね。
日本国内でも、せいぜい数秒角程度ですが、地域によって太陽黄経が変化します(ステラナビゲータで試してみてください)。昔の日本では京都で観測した太陽の位置を基準にしていたようですが、現代の旧暦計算(なんだか矛盾したような言い方ですね……)ではニュートラルな観測地点として「地球の中心」を基準としています。これを地心黄道座標とも言います。

以降のステラナビゲータ12による解説ではさりげなく二十四節気の位置を視黄経で表示し、観測地を地球中心にしてますが、そんなことは気にせずにステラナビゲータを使っていただいても、ほぼ同じ光景が見られて同じ結果が出るはずです(少なくとも2023年近辺では)。

閏月のタイミング

一年は一月に始まり、二月、三月……と続きますが、旧暦ではこの月の配置にルールがあります。

まず、毎年一月は必ず二十四節気の雨水(太陽黄経330°)の瞬間を含まなければいけません。雨水は西暦だと2月18〜19日に相当するので、その手前、つまり西暦の1月下旬から2月中旬ごろに旧暦一月の始まり=旧正月が来るわけです。

旧正月というと日本ではなく中国などで盛大に祝われる行事ですが、計算法は大体日本の旧暦と同じです。

他の月も、必ず特定のタイミング(「中気」と呼ばれます)を含むことになっています。

十一十二
中気雨水春分穀雨小満夏至大暑処暑秋分霜降小雪冬至大寒

これもステラナビゲータで見てみましょう。

2023年6月18日は新月です。ステラナビゲータで太陽と月の黄経がそろっているのを確認しました。
なお、太陽の[光芒]はオフで[日付]をオン、月の表示は[輪郭]にしています。

6月18日は新月、太陽は夏至の西側にある

※余談ですが、二十四節気以外の雑節も表示すると邪魔なので、これ以降の星図では二十四節気のポイントだけを×で表示する「追加天体」ファイル(adf)を使用しました。追加天体ファイルの作成方法についてはステラナビゲータのヘルプに詳しく書かれています。

そして、7月18日も新月です。この間、7月3日の満月を含む30日間が旧暦の「1か月」ということになります。また、その間に太陽も黄道の上を動いていますが、途中6月21日に太陽黄経90°の「夏至」を通過したことがわかります。

7月18日も新月で、太陽は夏至の東側へ進んでいる

ということで、2023年6月18日〜7月18日は夏至を含むので「旧暦五月」だとわかります。

さて、毎月このように中気が存在し、何月かを決めることができれば良いのですが、そうはいきません。最初にお話ししたように、12朔望月は1太陽年よりも短いので、どこかで不足してしまいます。

実は、2023年は既にその不足が発生していました。

3月22日の新月。ちなみに前日の3月21日が春分の日だった

3月22日の新月は、太陽が「春分」の少しだけ東側にいるときに起こりました。これが旧暦二月(春分を中気として含む月)の終わりで、本来であれば「穀雨」を含む旧暦三月が始まるはずなのですが……

4月20日の新月は穀雨の直前で起こってしまった。太陽は[輪郭]で表示

次の新月は、太陽が「穀雨」に到達する前に起こってしまいました。2023年3月22日から4月20日までの朔望月は、中気を含みません。このような月が閏月となるのです。この場合は「閏二月」となります。

まとめると、旧暦の各月は原則として中気のどれかを含むので、毎年◯月は大体同じ季節にそろうようになっています。そして中気を含まない月が発生したら「閏月」として月番号を飛ばすことで、太陽年と朔望月のズレが解消されているわけです。

旧暦の1年間を星図で表現してみた

クリックで拡大

最後に、新月時の太陽の位置を1年分、二十四節気の黄経座標と重ねてみました。月は省略しています。

こうすることで、暦が本質的に天体の動きであることが可視化できるのではないでしょうか。

天の赤道ではなく黄道が中心を走るこの星図は、「表示形式」ダイアログで「投影法」を[正方形図法(全天)]、「座標系」を[黄道座標]に設定すると表示できます。

天文シミュレーションは「自分でやってみる」のが一番

もちろん、実際に閏月を入れるタイミングは数式で計算できるので、実用上は太陽や月の位置を見る必要はありません。しかし、こうして目に見える形にすると、はるかに理解しやすいのではないでしょうか。

また、今回は私が作成した画像を使いながら説明しましたが、少しでも今回の内容が気になった方は、是非ご自分の手でステラナビゲータを操作して、確認してみてください! 理解度が全然違いますし、新たな発見も多いはずです。実際、私もこの記事を書く過程で気づいたことがたくさんあります。

今回は旧暦を取り上げましたが、他にも天文に関することで、当たり前だと思っていたことをステラナビゲータで再現しようとすると、意外な発見があるかもしれません。それが天文シミュレーションの醍醐味だと思います。

タイトルとURLをコピーしました