どうも、ソフトウェア技術部のくぼたです。めっきりと秋めいてきましたね!皆さん、もう火星は眺めましたか?
火星の“準”大接近(2020~2021)
2020年10月6日、約2年2か月ぶりに火星と地球が最接近しました。約6210万kmまで近づく“準”大接近です。詳しくは下記の特集ページをご覧ください!
【特集】火星(2020年10月6日 地球最接近) – アストロアーツ
ところで、地球のほうが公転周期が短いので、実は火星が接近するというよりは(太陽を固定すると)「地球が火星に接近する」と見ることもできますね!
今回は「台風14号」が迫る中の最接近日でした。もちろん、10月6日にしか火星が見られないわけでもないので、日食や流星群に比べると気持ち穏やかでした。
そう、奇しくも10月6日が台風前のラストチャンス。雲間から少しでも拝めれば……と淡い期待を胸に、観測場所へ車を走らせたのでした。
AstroArts ブランドの屈折望遠鏡
薄明終了の少し前、近所の川べりに到着しました。住宅や道路から少し離れ、静かで空も開けているこの場所は最近のお気に入りスポットです。この日は、若者たちが数人、ラップバトルの稽古?をしていましたので、お邪魔にならないよう隅っこに望遠鏡を組み立てました。
どうでしょう。画像で伝わるか分かりませんが、この長い鏡筒の存在感には思わず口元が緩んでしまいます。その正体は2003年の火星大接近に合わせて弊社 AstroArts が販売していた屈折望遠鏡「Mars Project Limited Edition」(ビクセン開発工業製)です。10cm / F15 のアクロマートで、その名の通り火星を見るために作られたような望遠鏡です。
Web にもほとんど情報は存在せず、弊社の当時のニュース記事にこのような小さなバナーが残っているのみでした。う~む、幻の鏡筒…!?
なぜこのようなものを、新人くぼたが一人で扱えているのでしょうか。実はこの鏡筒は弊社スタッフ(くぼたの上司で大先輩)が個人的に所有していたものを、私が譲り受けたものなのです。本当に有り難いことです。
先輩の自宅まで、鏡筒を引き取りに車で伺ったのがつい最近の休日。そして、この10月6日が、私とこの鏡筒のファーストライト記念日となったのでした。永く大切に、たくさん使っていきたいと思います。
余談(思い出語り)
恒例の?思い出語りです。2003年の火星大接近はよく覚えています。ちょうど結婚してすぐ、第一子が生まれる前で―。はい、すみません。ウソです。
当時、私は小学3年生のチビくぼたでした。鹿児島の片田舎に校舎を構える小学校のグラウンドで、理科の先生が児童・保護者を対象に観望会を開いてくれました。ぎらぎらと輝く火星もさる事ながら、がっしりと組み立てられた望遠鏡の姿に心を奪われてしまったのでした。
観望会後はしばらく、昼休みや放課後に理科室を訪れては、箱にしまってある「Vixen」と書かれた望遠鏡を恐る恐る眺めては、表面をちょんちょんと指で触り「あ~素敵!」と胸を踊らせます。
その頃から、図書室に行くたびにこのような書籍を繰り返し借り、そのまま天文の世界に興味を持ち始めたのでした。1本63円のアイスを買うのに悩んでいたあの頃、この本の冒頭に書かれた「むりして高価な天体望遠鏡を買うぐらいなら、むしろ安い双眼鏡のうほうが、天体観察に役立つこともあります。」という言葉に、どれだけ勇気づけられたことか。「ちょっとしたくふうや工作」を行う大切さや有用性も、ここから学んだ気がします。
つまり、そんな「きっかけ」となった火星の大接近の際に作られた鏡筒「Mars Project Limited Edition」を使用し、時を超えて大人になった2020年に火星を眼視するということに、何か感慨深いものを覚えるのです。
火星、見えた!
さて、話を戻しましょう。相模川のほとり。空はほとんど雲に覆われていますが、一部晴れているといった状態です。望遠鏡をセッティングして、木星に向けると導入中に雲が…!火星が見えてきたので、そちらを向けると今度はこちらに雲が…!(あるあるですね…)
そして……
ついに、捉えました!
雲の隙間からぎらりと輝く火星です。まだまだ高度は低いのに、模様がしっかりと見て取れます。久々の眼視。アイピースを取り替えながら、じっくりと観察しました。
東の空から月も昇ってきました。火星が雲に隠れたら月を観察。あっという間に時間が過ぎていきます。
いざ、撮影…できず!
一通り観察できたら、今度はやっぱり撮影してみたいという欲が出てきます。
しかし、拡大撮影用のアダプタ(Tマウント)が接眼部に付きません。手持ちのいろいろなリングやアダプタを噛ませたり、接眼部のネジをクルクル回すもうまい組み合わせが見つかりません。
策に窮して、試しに某社製の5倍バローレンズを31.7mmスリーブに差し込み、その先にアダプタを装着してみました。
う~ん。見るからに危ういですね。スケアリングの問題もありそうで、そもそも5倍バローレンズの像にかなり無理がある感じです。
今度は養生テープを取り出し、延長筒とアダプタをグルグル……。正立プリズムとアダプタをグルグル……。
いやいや、そんなバカな……。「そんなことするな!」と怒られそうな見映です。完全なるアンチパターンですね。こういう危ないことはやらないようにしましょう(自戒)。
暗闇の中で下手に触っても、モノは無くすかもしれないし、壊すかもしれない。散らかる一方で、時間だけが過ぎていくので、この日は腹をくくって思う存分に眼視で観望を楽しむことにしましたとさ。
おわりに
自分の目で天体を見るとき、いつも不思議に思います。
「今見ている火星は、作り物でもなんでもなく、おそらく生きているうちには到達できない、はるか遠くの物体なんだ。現実に存在しているんだ―」と。
人はこの気持ちを“ロマン”と呼ぶのでしょうか。
一方で、天体を観察している自分を他の誰かがいつも観察しているのでは?(映画「The Truman Show」のように)― あの火星も、もしかすると、ハリボテの何かという可能性はないか?― という疑念にも似た興味が、私の心を宇宙から離してくれません。
そして、いつものように夜は更けていきます。
関連情報
・【特集】火星(2020年10月6日 地球最接近) – アストロアーツ
・星ナビ10月号は「火星、接近」と「星空AF」 – アストロアーツ