事業企画部のひろせです。
「1年で一番大きい満月」とされる「スーパームーン」は、天文ファンだけでなく、元々星空を見る習慣がなかった方々の間でも大きな関心を集めるようになってきました。
私は、この言葉が最初に流行りはじめたときは「どうせ見た目で大きさの違いなんてわからないじゃん」と冷めた受け止め方をしていたのですが、最近は一種のお祭りととらえています。空を見る人が増えるお祭り。天文ファンを増やすチャンスかも!
スーパーでブルーなムーン
さて、2023年のスーパームーンは、国内の情報を見る限り「8月31日」ということになっています(国外事情は本記事後半で解説)。
実は8月2日も満月でした。つまり、2023年8月には満月が2回あります。このとき、2度目の満月のことを「ブルームーン」と呼ぶんだそうです。
ええ、ブルームーンにも天文学的に重要な意味はありません。青く見えるわけでもありません。これもお祭りです。平均して2、3年ごとにしか巡ってこないお祭り。前回のブルームーンは2020年10月、次回はなんと2026年!
そして2023年8月31日はスーパームーンでブルームーン。二重にお祭りでなんとめでたい!
で、実際どれくらい大きいの?
月が地球に一番近づいたとき(=一番大きく見えるとき)と一番遠ざかったとき(=一番小さく見えるとき)では大きさが約14%違います。2023年で一番小さい満月は2月6日だったので、8月31日のスーパームーンと比べて見ましょうか。
あ、せっかくだから8月2日の「今月1個目」の満月も一緒に。描画に使うのはおなじみの天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ12」です。
……あれ?
8月2日の方が大きくない?
この図だけを見ると「目の錯覚かな?」と思いたくなりますが、念のためステラナビゲータで確認しましょう。
日付 | 満月の時刻 | 月の視直径 |
2日 | 3時32分 | 33.5分角 |
31日 | 10時36分 | 32.9分角 |
何と言うことでしょう、0.6分角差で本当に2日の方が大きいではないですか。本当に31日の方が「スーパームーン」なのでしょうか?
「スーパームーン」という用語に厳密な定義はないのですが、通常は「地球の中心から月の中心までの距離」(月の地心距離)がどれだけ近いかが基準とされています。
ところが、私たちが月を見上げるとき、その大きさを左右するのは地球の中心ではなく、地表にいる私たち自身から月までの距離であるはずです。
これを「測心距離」と言います。
8/2と8/31の満月は、地心距離で比べるとわずか200kmの差しかありません。
その一方で午前3時半に満月を迎える8/2の月は、日本から見ると地平線上にあり、測心距離は地心距離よりも少しだけ近くなります。8/31の満月は10時半で地面の真下近くにあり、測心距離にも地球半径に近い補正がつきます。
日付 | 満月の時刻 | 月の地心距離 | 月の測心距離 |
2日 | 3時32分 | 35.75万km | 35.62万km |
31日 | 10時36分 | 35.73万km | 36.30万km |
こうして測心距離で比べると8/2の方が8/31の満月より数千km近くなり、大きく見えるという次第です。もちろん、「満月の瞬間」にこだわらずに空高く昇っている時間帯で比較すると、結果は変わってきます。
スーパームーンの日付は、定義次第
というわけで、スーパームーンを「地球の中心から月の中心までの距離」で決めてしまうと、今回のように必ずしも「1年間で1番大きく見える満月」がスーパームーンにならない、という事態が発生するわけです(そもそも満月の瞬間が地平線下だと見えないというツッコミは置いとくとして)。
なお、アストロアーツでは厳密には「スーパームーンの定義」という言い方はせず、以下のように決めています。
科学的な定義が決まっていない言葉ですが、アストロアーツでは現状“「月の近地点通過(月と地球が最接近するタイミング)」と「満月の瞬間」が「12時間(半日)以内」の場合、その前後の夜に見える満月”を指してスーパームーンと表記しています。「これが正しい」ではなく「このように考えることにしている」ということです。
星空ガイド:2023年8月31日 スーパームーン
「スーパームーン」という言葉の発祥の地(?)であるアメリカでは意味が異なることが多く、「一定の距離より近くにある満月」とされるようです。つまり、1年間にスーパームーンが複数回巡ってくることがありうるのです。
NASAの記事によれば、2023年のスーパームーンは情報源によっては4回(!)、それ以外では2回です。つまりアメリカでは「8月2日も31日もスーパームーン」というのが一般的な考え方なのですね。それにしても4回って、まるでスーパームーンのバーゲンセールだな……
定義によって変わってしまうのだとしたら、スーパームーンが本当に有り難いと言えるのか、わからなくなってしまいますが、やっぱり難しいことを考えずに「お祭」と割り切って楽しむのがいいのかもしれません。
最後に、8月31日の午前10時半ごろが満月の瞬間なので、31日の夕方に昇ってくる月より、同じ日の明け方に沈む月の方が欠け際が少なく、満月に近いと言えます。また、月までの距離も、30日から31日にかけて見える月の方が、31日から9月1日にかけて見える月より平均して近い(地心距離・測心距離とも)ので、「少しでも大きい月を見る」ことにこだわるなら、8月30日の夕方から31日の明け方にかけて見えている月を眺めましょう。