ソフトウェア技術部のくぼたです。シリーズ「天文×さだまさし」(全4回)の第3回お届けします。前回、前々回とマニアックな内容を長々と書き連ねてしまいましたので、今回は少し肩の力を抜いて(手じゃないですよ)軽めに仕上げています。
「天文×さだまさし」第1回、第2回をまだ読んでいない方は、こちらも併せてどうぞ!
はじめに
世の中には宇宙をモチーフにした楽曲が多く存在します。月や星はロマンチックな心象風景の一部として歌詞を彩ることもしばしば。
今回は、シンガーソングライターさだまさし氏の作品の中から、天文にまつわる楽曲の数々をご紹介してまいります。楽曲の考察は、歌詞から読み取れる内容や、天文学的事実をもとに楽しく推測を試みているものです。実際の背景や意図と異なる場合もございますが、どうか温かく広いお心でご覧くださいませませ(意見には個人差があります!) 。
本記事の掲載をご快諾いただきました「株式会社まさし」様には、この場をお借りして心より御礼申し上げます。また、本記事におけるさだまさし様の名称使用、作品紹介に関しては、株式会社まさし様のご了解を得ておりますが、記事の内容につきましては、弊社(株式会社アストロアーツ)の責任のもと掲載をしております。
「天文×さだまさし」楽曲紹介!
さっそく、楽曲の数々をご紹介していきます。各曲、このような構成でまとめています。
天文にまつわるすべての楽曲をご紹介できないこと、お許しください。また、「こんな歌もあるよ!」とお気づきになられた方は、ぜひシェア&リプライなどいただけますと幸いです!
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♪ ステラ,僕までの地図(1995年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/96071/
アルバム「さよなら にっぽん」に収録。”ステラ”という名前の女性と別れた主人公。ステラと一緒に過ごした日々を思い出し、心に留めながらいつかまた会えると信じて、色褪せない思い出を「僕までの地図」として刻む歌です。
ほんとうなら君は ステラ
いくつになるんだっけ
ステラ…
さだまさし ステラ,僕までの地図 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/96071/
いやあ、切ないですね。さだまさし氏の歌は、詞の最後に歌のテーマに深く関わることや、答えが仕掛けられていることがあります。俗に「オチ」というのでしょうか。第1回でご紹介した「風に立つライオン」も最終行でドキッとしてしまいます。有名なヒット曲「雨やどり」などもそうです。
さて、ごめんなさい。
いきなりですが、この歌には直接的な天文の話題は出てきません…。それなのになぜ、取り上げてしまったのでしょう。
ステラ、ステラ、ステラ…
この楽曲の歌詞には「ステラ」という言葉が9回も登場します。もうお気づきでしょう…。弊社アストロアーツには「ステラ」をその名に冠した製品がいくつもあります。若干、宣伝の香りがしてしまいますが、ここでアストロアーツの「ステラ」製品を挙げてみましょう!
ステラナビゲータは、国内でデファクトスタンダードの地位を持つ、純国産の天文シミュレーションソフトウェアです。正確で高精度な天文計算と、過去から未来に至るまで極力妥当な星空の再現を追求し開発を続けてきた歴史があります。
ステラショットは PC からデジタルカメラと望遠鏡を制御して天体導入と撮影を自動的に行えるソフトウェアです。夜の観測時間は思いのほか早く経つもの。わずらわしい操作をすばやく済ませて限られた時間を有効に使えます。
私、くぼたも小学生の頃にお年玉で「ステラナビゲータ7」を購入した思い出があります(歳がバレてしまう…)。ステラシリーズはどのように生まれたのでしょうか?ベテランスタッフのあじきさ~ん!おしえてください!
どうも、ソフトウェア開発部のあじきです。
ステラシリーズの歴史は、1992年7月発売の「ステラナビゲータ」(PC-9801用MS-DOS版)に始まります。この「ステラ,僕までの地図」の発表の頃には、バージョン3にあたる「ステラナビゲータ for Windows 95」が発売されています。そう、あの秋葉原を沸かせた「Windows 95 フィーバー」の頃です。あれっ、あの熱気を知りませんか?
「Windows 95 フィーバー」…まだ当時のチビくぼたは物心ついていませんね。
おやおや。そういえば、くぼたくんは 1992年7月発売の「ステラナビゲータ」よりも年下でしたね。
閑話休題
さださんの歌声はデビュー当時から現在にかけて、変化をしています。私の特技は、さださんの声を聞くだけで、だいたいどの年代の音源か当てること!そして、素晴らしいのはその時の声にピッタリ合った楽曲が、その時代時代に生まれていることだと思います。この歌も90年代半ばの艷やかで少し粘度の高い声で歌われることによって、物悲しさと微かな希望とのバランスが絶妙に表現されていると感じます。
♪ 流星雨(1997年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/63986/
アルバム「夢唄」に収録。主人公がかつて「君」と見た流星雨を思い出し、心の中ではいつも「君」を大切に思う気持ちを持ち続けている一途な心情を描いたバラード曲です。
君に教えられたあの夜 空に降りしきった流星雨
ふたり 時を越えた あの一瞬
さだまさし 流星雨 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/63986/
「流星雨」とは読んで字の如く、流星が天球に降り注ぐように見えるほど多く出現する現象です。記憶に新しい(といっても20年近く前)のは、2001年の「しし座流星群」ではないでしょうか。私自身は当時まだあどけない子供だったため、ぼんやりとしたニュースの記憶しかないのですが、実際に目撃した知り合いのおじさま曰く「怖いくらいの流星だった…」とのこと。日本でも、2001年11月19日の3時台には1時間に数千個を超えると思われる、まさに「流星雨」が観測されたようです(国立天文台観測チームより)。
さて、お気づきかもしれませんが、1997年発表のこの歌に登場する「流星雨」は2001年のしし座流星群ではありません。この「流星雨」のモデルとなったのは、さだまさし氏が幼い頃に遭遇した流星群とのこと。さだまさし氏は著書の中で次のように記しています。
僕も少年の頃、一度だけこの「流星雨」を目撃した。小学校に入るか入らぬかの頃であったから、一九五九年、或いは、その前後の夏である。
「自分症候群」(新潮文庫)さだまさし/著 p.132 より引用
周りの乗客たちも寝静まった寝台車の中、ベッドに横になりながらそと車窓のカーテンを引き上げて外を眺めているときに目撃したのだそうです。
また、同著書の中で、次のようにも記しています。
SF映画の巨匠スティーヴン・スピルバーグは、少年の頃、アリゾナの砂漠地帯で、“雨が降る様に星が降る” いわゆる「流星雨」を目撃したという。これが、彼に “宇宙” に興味を持たせた原因だ、と何かのインタビューで彼自身が答えていたのを読んだ。
「自分症候群」(新潮文庫)さだまさし/著 p.132 より引用
ふむふむ。
スピルバーグが目撃したものと、僕が特急さくら号の中から見たものが (中略) 同じ流星雨である可能性について
「自分症候群」(新潮文庫)さだまさし/著 p.132 より引用
星好きなスタッフで集まり、これらの流星雨について考えてみました。
さだまさし氏とスピールバーグ氏が目撃した流星雨は同じものか?
スピルバーグ氏は2005年のインタビュー※1で「6歳のころにペルセウス座流星群(Perseid meteor shower)を見た」と明言していますね。
英語の “meteor shower” は日本語の「流星雨」と違い、そんなに出現数が多くなくても使える表現です。そのため、スピルバーグ氏が「雨のように降る」流星を見ていたとは限りません。しかし、幼心にぐっと宇宙に惹きつけられるほどの天文現象だったのでしょうね。
1946年生まれのスピルバーグ氏が6歳の頃ということは、さだまさし氏が流星雨を目撃した1959年とは少し時代が違いますね。残念ながら、両者が全く同じ流星雨に遭遇したわけではなさそうです。
※1:Worlds apart | The Spokesman-Review / https://www.spokesman.com/stories/2005/jun/30/worlds-apart/
さだまさし氏が目撃した流星雨の正体は?
この時代に見られた流星雨といえば何か思い浮かぶもの、ありますか?
はじめまして、せんすいです。先ほど触れられていた「しし座流星群」。これは33年周期で活発な活動があり、1966年にも大出現したそうです。しかし、日本では見られなかったらしいし、年代も少し違いますね。
大出現があったのですね。しかし、おっしゃる通り年代が少し違いますね。
日本流星研究会のウェブサイトにまとめられた「1900年以降の流星活動突発記録」※2を1959年前後の7〜8月に肉眼で突発出現が目撃された事例は報告されていません。
当時の「天文月報」※3をチェックしてみても、大出現の報せはありませんでした。う~む。正式な記録が残っていないようなので、ある時ある場所だけで出現した突発群の1つだった可能性もありますね。
ペルセウス座流星群は三大流星群の1つで、ただでさえも極大時の出現が多い上に、短時間でいくつもの流星が飛ぶのも珍しくないので、誰も報告してない突発をさだまさし氏が見ていた可能性は十分あると言えます。
【結論】
さだまさし氏、スピルバーグ氏の2人が流星雨はペルセウス座流星群の可能性が高いです。目撃した時期には5年以上の隔たりがあるとはいえ、元をたどれば同じスイフト・タットル彗星から放出された塵です。それを踏まえれば、「同じものを見た」と言っていいのではないでしょうか。
追記(2020/9/19):記事公開時に「テンペル・タットル彗星」と記載しておりましたが、正しくは「スイフト・タットル彗星」でした。お詫びして訂正いたします。
※2:1900年以降の流星活動突発記録 / http://www.nms.gr.jp/observation/burstlist20.html
※3:「天文月報」1959年 / http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1959/index.htm
♪ 白夜の黄昏の光(1998年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/63408/
アルバム「心の時代」に収録。1996年に亡くなった写真家の星野道夫氏をモデルに作られた歌です。妻の星野直子氏の目線で描かれる歌詞には、星野道夫氏の写真を下敷きした美しいアラスカの風景が登場します。星野氏が愛用したものと同機種のニコンカメラのシャッター音が、イントロの前に聞こえてきます。
あなたは風のような物語を駆け抜けるように
白夜の黄昏の光の中に帰っていった
さだまさし 白夜の黄昏の光 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/63408/
「風のような物語」は星野氏の写真集の名前でもあります。1989年、週刊朝日に1年間連載された「Alaska 風のような物語」をまとめた写真集で、アラスカの自然を写した写真や、そこで出会った人々との物語が綴られています。
さて、「白夜」とは、北極や南極付近の高緯度地域で夏至の前後に見られる、一日中太陽が沈まない現象のことです。不思議ですね。これは地球の地軸が公転面に対して23.4度傾いているため、その地域が1日を通して太陽の方向を向くことで起きる現象です。逆に冬至の時期には一日中太陽が昇らない「極夜」がという現象が見られます。
これもイメージしにくいと思いますので「ステラナビゲータ11」で再現してみましょう。
場所を、歌詞の中にも登場するアラスカの「ネナナ」に設定し、1989年の夏至の時期に飛んでみることにしましょう。
まず、アラスカのネナナは「ステラナビゲータ11」の「都市名選択」に標準で登録されてないため、Google マップで位置を検索して、緯度・経度を取得しました(64.1515451,-153.0460127)。
この緯度・経度を度分秒の形式に変換し、場所設定ダイアログに直接打ち込みます。
このように、多くの人が知らない都市も、自分で新たに追加登録することができます!
では、PC の中でアラスカのネナナに飛び、日時を設定して時間を進めて、太陽・空の様子を観察してみましょう。
おおっ!夜中の時間帯になっても薄明の空が続き、暗くなりません。
ストリングスアレンジの壮大な楽曲です。当初、この歌は若い私には重たくてなかなか通して聞くことができませんでした。サビの流れるように下ってくる旋律とハーモニーは息を呑むほど美しく、ほとんどその箇所を聴くために流していたような時期もありました。しかし、自分でカメラを持つようになって、歌詞の中身をイメージできる(したく)なるようになり、「極光」も然りですが、いつかこの楽曲の歌詞にも登場するオーロラを撮ってみたいという気持ちが募るようになりました。
♪ 星座の名前(1999年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/95887/
アルバム「季節の栖~Twenty Five Reasons~」に収録。ふるさとの記憶、むかし父母から教わった言葉を懐かしく思い出す歌です。作詞は演歌歌手の三波春夫氏。編曲はさだまさし氏と親交の深かった山本直純氏です。山本氏は曲中の鍵盤ハーモニカ演奏にも参加しています。
父さんは指さして
星座の名前を教えてくれた
大きな心を持つように
さだまさし 星座の名前 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/95887/
「星座の名前」と書いて「ほしのなまえ」と読ませています。ここでは読みを優先して「星」の名前について考察してみましょう。
そういえば、少し前に関連する内容の記事を書いていました!
星(恒星)の名前について。こと座の「ベガ」とか、わし座の「アルタイル」とかですね。星の「固有名」とも呼ばれますけど、これが正式に決まったのがほんの数年前だったってご存じでしたか?
「いやいや、ずっと昔からベガやアルタイルと呼んでたのはなんだったの?」って思いますよね。詳しくは以下の記事をお読みください!!
アルバム「季節の栖(ときのすみか)」は、さだまさし氏と縁のある音楽界の様々な人々が参加して作られました。その面々は凄まじく、弾厚作(加山雄三)、南こうせつ、谷村新司、服部克久、小椋佳、永六輔(敬称略)などなど、ビッグネームの方々ばかりが名を連ねています…!個人的には、来生たかおとの合作「遠い海」を来生さん本人の歌声で聴いてみたいと切に願っているところであります。
♪ 月蝕(2000年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/96031/
アルバム「日本架空説」に収録。月蝕の夜に行われる祭と、男女の別れを描いた歌です。ここで舞台となる祭は実在するものではなく、日本古来の精神性を宿したイメージの祭とのこと。短調で激しくギターをかき鳴らす「和製ロック」な曲です。この曲調は他のさだまさし氏の楽曲にも多く見られます。
振り仰げば夜空には赤い月
今宵月食の月明かり
翳れば満ちてゆく理も
わたしの胸は ああ
さだまさし 月蝕 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/96031/
「月食」とは、太陽と月の間に地球が入り、月に地球の影が落ちる現象です。この楽曲の発表年、2000年にも「皆既月食」が起きています。「皆既月食」とは本影(地球によって太陽が完全に隠される部分)に月がすべて入る現象です。影にすっぽり入ってしまいますが、月が真っ黒になることはありません。太陽光が地球の大気を真横に通過する際に、波長の短い成分は散乱してしまいます。残った波長の長い成分が照らすことで、暗い赤色の月になります。
せっかくですので、2000年7月16日の皆既月食を動画で再現してみましょう。
2000年に見られたこの月食は、欠けている時間が長いものでした。 皆既の時間だけで1時間47分もあり、月食の継続時間としては最長クラスといっていいでしょう。 これに匹敵する長さの月食を過去に探すと、なんと1859年8月14日までさかのぼらなくてはなりません。
ちなみに、次回日本から観測できる月食は2021年5月26日の皆既月食です。さらに、同年11月19日には部分月食も見られます。晴れるとよいですね!
「和製ロック」という異名はどこからやってきたのでしょうか。もしかしたら、使っているのは私の周りだけかもしれません。速いテンポでマイナーコードを力強くストロークするのは難しく、またこういった類の曲は往々にして喉にも負担がかかりやすい傾向があります。サビでは高音の旋律が連続します。真正面から歌っていては声帯が持ちませんので、いかに力を抜いて太い声を出すかがキモになってきますね!
「飛梅」「まほろば」「津軽」「修二会」「都府楼」などなど、さださんの和製ロックは名曲揃い。ぜひコンサートで聴いてみてください。
今回使用したソフトウェア
本記事では、楽曲の考察に天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータ11」を使用しました。
「ステラナビゲータ11」は、今夜の星空や星座、惑星の様子はもちろん、過去から未来までの20万年間に起こるあらゆる天文現象をリアルに再現できる、Windows用天文シミュレーションソフトウェアです。
おわりに
シリーズ「天文×さだまさし」の第3回、お楽しみいただけたでしょうか?
天文の世界も、さださんの”わーるど”も奥深くて非常に興味深いですね。
今月末、第4回を公開予定です!乞うご期待くださいませませ!
関連情報
・さだまさしオフィシャルサイト
・ステラナビゲータ11 – StellaNavigator11