ソフトウェア技術部のくぼたです。シリーズ「天文×さだまさし」(全4回)の最終回お届けします。秋の夜長にじっくり歌の世界に浸ってみるのもよいものですね。編集後に気づきましたが、今回は意外と年代が飛んでいますね…!
はじめに
世の中には宇宙をモチーフにした楽曲が多く存在します。月や星はロマンチックな心象風景の一部として歌詞を彩ることもしばしば。
今回は、シンガーソングライターさだまさし氏の作品の中から、天文にまつわる楽曲の数々をご紹介してまいります。楽曲の考察は、歌詞から読み取れる内容や、天文学的事実をもとに楽しく推測を試みているものです。実際の背景や意図と異なる場合もございますが、どうか温かく広いお心でご覧くださいませませ(意見には個人差があります!) 。
本記事の掲載をご快諾いただきました「株式会社まさし」様には、この場をお借りして心より御礼申し上げます。また、本記事におけるさだまさし様の名称使用、作品紹介に関しては、株式会社まさし様のご了解を得ておりますが、記事の内容につきましては、弊社(株式会社アストロアーツ)の責任のもと掲載をしております。
「天文×さだまさし」楽曲紹介!
さっそく、楽曲の数々をご紹介していきます。各曲、このような構成でまとめています。
天文にまつわるすべての楽曲をご紹介できないこと、お許しください。また、「こんな歌もあるよ!」とお気づきになられた方は、ぜひシェア&リプライなどいただけますと幸いです!
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♪ 決心~ヴェガへ~(2004年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/63183/
アルバム「恋文」に収録。第4回の1曲目もマニアックな楽曲から入っていきました。愛する人の元へ旅立つため夜汽車に乗る女性と見送る男性。その両者の視点で互いに贈る言葉を綴った歌です。軽快なリズムに乗せられたメロディは、1曲を通して複数の声によるハーモニーで歌われています。
折からペルセウスの流れ星夜空を埋め尽くしていた
君は銀河鉄道に乗って今織り姫のヴェガになる
さだまさし 決心~ヴェガへ~ 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/63183/
いろいろ出てきていますね!まずは「ペルセウスの流れ星」これは、三大流星群のうちの1つ「ペルセウス座流星群」のことでしょう。ほか2つは「しぶんぎ座流星群」「ふたご座流星群」です。これらは、毎年観測しやすい流星群として知られています。
夜汽車に乗って車窓からペルセウス座流星群を眺めた、というエピソードは第3回の記事に登場した楽曲「流星雨(1997年)」で触れた、さだまさし氏の幼少期の思い出を彷彿とさせます。
「夜空を埋め尽くしていた」というほどではありませんでしたが、今年の8月12日、ペルセウス座流星群を観察してきました。なんとかお天気にも恵まれ肉眼での観察や撮影を楽しむことができました。
そして、楽曲タイトルにもなっているのはこと座の「ベガ(織姫星)」ですね。わし座の「アルタイル(彦星)」とともに、七夕の星として親しまれています。
今回も天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」を使用して、楽曲が発表された2004年の7月7日にタイムスリップしてみました。ちょうど天の川銀河を隔ててベガとアルタイルが対峙している様子が分かります。もちろん、七夕の夜にこの2つの恒星が物理的に近づいて逢瀬を楽しむことはありません。その距離16光年の超遠距離夫婦です。愛は光の速さをも超越するのでしょうか。おっと、そんな歌がこのあと出てくるのでした!お楽しみに!
どうも、プラネタリウム事業部のとよだです。織姫と彦星の16光年は、人間の尺度で見れば遠いですけど、宇宙的な観点ではとても近いように思うんですよね。あと、年一回会う機会があったとして、「星の一生」のタイムスパンだと何回会うんだろうかとか。宇宙スケールを基準にすると、人間のちっぽけさを感じますね。
たしかに、蝉から見たら人間の「単身赴任中の夫」という存在は、彦星と同じように見えるのかもしれませんね。
おもしろい発想…
「銀河鉄道」というキーワードも出てきました。さださんの歌の中には、彼が多大な影響を受けたという作品「銀河鉄道の夜」にまつわるフレーズやイメージがいくつも登場します。実は第1~3回の記事でご紹介した楽曲の歌詞の端々にも、宮沢賢治を思い出させる単語が顔を出していました。「銀河鉄道の夜」については、最後の楽曲で詳しく触れることにしましょう。
ちなみに、織姫と彦星が登場する楽曲として「♪ かささぎ(2007年)」というものもあります。
アルバム「Mist」に収録されており、NHKドラマ「海峡」の主題歌でした。ここで併せてご紹介します。
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/62690/
♪ ふたつならんだ星~アルビレオ~(2004年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/63189/
アルバム「恋文」に収録。昔の恋人が、まだ純朴だった自分に与えてくれた優しさや夢について振り返り、また、美しいもの触れるにつけて思い出す「あこがれ」や「希望」、そして「愛」について歌ったバラード曲です。
韓紅と瑠璃色とふたつならんだ星よ
その名はアルビレオ美しい星あなたと私の夢
さだまさし ふたつならんだ星~アルビレオ~ 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/63189/
さださんの歌は色の表現が豊かですね。「韓紅」「瑠璃色」どんないろでしょう。実際に「アルビレオ」を見てみましょう。
アルビレオははくちょう座の頭のあたりに位置する二重星です。3等星で肉眼では1つの星にしか見えませんが、双眼鏡(10倍以上)や望遠鏡で観察すると、2つの星に分離して見ることができます。
だんだんと秋の夜空になってきましたが、夏の大三角を見つけたら、はくちょう座からアルビレオを辿ってみてはいかがですか?
アルビレオは見事に色が違って面白いです。宝石に例えることもあるみたいですね。
宮沢賢治の作品「銀河鉄道の夜」でもサファイアとトパーズが輪になって回っているもの、として例えられていますね。
こういうふうに並んでいる星を二重星といいますが、地球から見たときにたまたま近くにある「見かけの二重星」と、実際に近くにあって互いの周りを回っている「連星」とがあります。アルビレオはどっちなのか、割と最近でも新しい論文が出たり、他にも掘るとたくさん話のネタが出てきて、そういう意味でも宝石箱かも。
宝石箱……うまいことを言いますね。望遠鏡を覗き込みながら「韓紅と瑠璃色と~♪」と口ずさんでみましょう。
♪ プラネタリウム(2011年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/115604/
アルバム「Sada City」に収録。プラネタリウムで遥か遠くの天体に思いを馳せながら、すぐそばにいる恋人との距離に胸を焦がす主人公。そして、2010~2011年ごろにチュニジアで起こったジャスミン革命にも触れ、遠く地中海の命について、自由について、この宇宙に生まれた自分自身の存在について、壮大なスケールを行ったり来たりしながら思考させられる歌です。
君の手に触れた時の プラネタリウムの空の色
さだまさし プラネタリウム 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/115604/
この歌のモデルになったのは、かつて渋谷駅前にあった五島プラネタリウムだとか。プラネタリウムといえば、昨年立ち寄ったとあるドームで解説員さんが「お子さんが、おおぐま座の絵を見て『猫背の狸座だ!』と言っていました。子どもならではの自由な発想ですね~」とおっしゃっていました。あれ?猫背の狸?これは、さだまさし氏のアルバム「自分症候群(1985年)」に収録されている、当時としては(今も?)前衛的なアノ曲のタイトルなのでは…?もしかして、一般名詞だったのか…?と疑問に思い調べてみましたがしっくり来る情報は見つからず終いでした。「猫背の狸座だ!」と発言した子どもの真相やいかに…。
5億光年離れても超新星残骸空に咲く花
さだまさし プラネタリウム 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/115604/
超新星残骸と聞いて真っ先に浮かぶのは「かに星雲(M1)」ですが、この距離は約6500光年。5億光年というと、なんでしょう。せんすいさん!
おっと、急に名前を呼ばれましたね。こんにちは、せんすいです。超新星残骸…「ピンポイントでこれ!」というのはわかりませんが、5億光年彼方の超新星は見えても残骸は見えないんじゃないかなと思います。それはともかく、超新星爆発によってはるか彼方で星が一生を終えたことがわかり、それが実際には5億年前の出来事であるということ、天文学の面白さだなと感じます。
事業企画部のひろせです。ちなみに、残骸でなく超新星そのものなら数億光年先でぽんぽん弾けてますし、一番遠いものは100億光年以上先で見つかってますね。
関連ニュース:これまでで最遠、105億年前の超新星を発見
プラネタリウム事業部のたかのです。私からも一言コメントを!「君の手に触れたときの~」考えるだけで胸がどきどきしちゃいます!プラネタリウムデートが好きなのですが、爆睡されたこともしばしば(笑)そんな中で最後までしっかり起きててくれて、感想まで言い合えたら1発KOです…!
なんだかコメントに幅が出てきましたね(笑)。では、私も。
アコースティックギターのコード Em の低音弦から始まり、12フレットのハーモニクスがピキーンと響くイントロは印象的です。Aメロはイントロを踏襲しつつ Em → A というコードの繰り返しで、他のさださんの曲にはあまり見られないコード進行ですね。そして、サビでは G のメジャーコードでいっきに開放感のある雰囲気に。間奏でまたイントロに戻り、緊張 → 緩和 → 緊張の流れを楽しめます。
♪ 図書館にて(2011年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/115601/
アルバム「Sada City」に収録。図書館を舞台に、主人公が想い人へ寄せる瑞々しい気持ちを哲学や数学、物理学といった博識な造詣に乗せながら、静かに表現する歌です。
あたかも五次方程式のように
心も恋も解けない
さだまさし 図書館にて 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/115601/
学生時代に2次方程式の解の公式を覚えた人は多いのではないでしょうか。「にーえーぶんの、マイナスびープラスマイナスルートびーのにじょうマイナスよんえーしー」。
呪文のように未だに口ずさめてしまいますね。私も専門ではないので詳しくないのですが、このような一般解を代数的に求める公式は5次方程式に対しては存在しないそうですね。そして、心も恋も…そうみたいですね。うぅ…。
E=mc2と僕が書けば
恋は光速を超えた
さだまさし 図書館にて 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/115601/
なんと、歌詞の中に方程式が登場しました。これはかの有名な物理学者「アインシュタイン」によって発表された特殊相対性理論から導かれる方程式です。「質量とエネルギーは等価ですよ」ということを言っています。E はエネルギー、m は質量、c は光速(定数)です。右辺には光速の2乗が出てくるので、小さな質量であっても莫大なエネルギーに転化しうることを示唆しています。これについても、専門家ではないので抽象的な説明になってしまいました。ごめんなさい。
大学時代に、特殊相対性理論の座標変換(ローレンツ変換)から帰結する時間の遅れや速度の合成の方程式に、具体的な数値を当てはめて計算しただけで、小さな感動を覚えた記憶があります。……うむ。やはり、これ以上ヘタに語るのは止めておきます(笑)。
インターネットや文献にたくさん詳しい記事がありますので、興味を持った方はぜひ調べてみてください。私は、あくまで楽曲の紹介までとさせていただきます…。
ちなみに「ステラナビゲータ11」では光速を超えて宇宙の果まで数十秒で旅をすることができます。
E = mc^2、質量とエネルギーの等価性。素敵です。どんな物体も、エネルギーの結晶みたいなものだってことです。なお、原発などで使う核分裂も、恒星のエネルギー源である核融合も、その際にわずかに減る質量分が、エネルギーとして取り出される仕組みです。核分裂は星に関係なさそうだけど、アレはもともと超新星爆発とかで元素合成されたもの。我々の身近に、宇宙に関係しないものなど何一つないんですよね。。
まるで絵画の中の物語を見ているような、静けさと恋の美しさを感じます。この詞を読んでいると、図書館というありふれた空間が特別なものに早変わりします。天文の歌かと言われれば少し毛色が違うかもしれません。しかし、宇宙物理や数学に関する単語がこんなにもダイレクトに歌謡曲中に登場する歌詞は珍しいのではないでしょうか。さださんは文学的なイメージが強いですが、このような理数系のフレーズも時々盛り込まれます。いやはや…。
♪ 銀河鉄道の夜(2020年)
歌詞全文:https://www.uta-net.com/song/285696/
アルバム「存在理由~Raison d’être~」に収録。地理的にも時間的にも離れた「ふるさと」を思い起こし、記憶の中で綻びつつも成長する風景を探す歌です。2014年公開の映画「ジョバンニの島」の主題歌です。
前述の通り、さだまさし氏の歌には宮沢賢治や作品「銀河鉄道の夜」に影響を受けた部分がいくつも見受けられます。同氏はあるインタビューの中で、宮沢賢治のことを「僕の手の届かない頭上に燦然と輝く神様のうちの1人」「小宇宙」「アンドロメダ」と表現しています。
「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治の代表作として広く知られている作品です。その幻想的なタイトルや、作者の死去により未定稿のままで世に出ている点も読者の興味関心を惹く一因といえるでしょう。
星空を覚えている
降りしきる銀河の音
ほんとうのさいわいは
どこにあるのだろう
さだまさし 銀河鉄道の夜 歌詞 – 歌ネット:https://www.uta-net.com/song/285696/
この歌には、特に具体的な天体や現象が登場するわけではありません。しかし、この歌そのものが「天文×さだまさし」でご紹介したあらゆる楽曲の共通する根っこを有しているように感じます。
「星空」「銀河の音」は、心象風景のようではありますが私たちの1人ひとりが「ふるさと」で出会ったであろう景色に通じますね。歌詞の中には「我が家」「初恋」「友」「韃靼(だったん)」など懐かしさを匂わせる単語が見られます。これらは単にノスタルジーというだけでなく、根底に「生命」が存在するという気持ちがしてなりません。そして、それらはきっと「いつかまた巡り会える」もの。賢治の「銀河鉄道の夜」の中にも登場する「ほんとうのさいわい」を探して、私たちはこの広い宇宙の中で小さくも懸命に生きているのでしょうか。
私からもコメントを。映画の方は全く見てないので的外れなことを言ってしまうかもしれませんが、小説の「銀河鉄道の夜」は大好きなのでコメントします!あ、思いっきり「銀河鉄道の夜」のネタバレするのでご注意ください。
私にとって「銀河鉄道の夜」は主人公ジョバンニと親友カムパネルラの別離の物語というイメージが強いので、歌詞の中にある「いつかまた巡り会える」という願いが悲しげに響くなあ、と思ってしまいました。
「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう」というセリフはサウザンクロス(南十字星)を過ぎた後でジョバンニがカムパネルラへ語りかけたセリフの一つで、この後間もなくカムパネルラは闇に吸い込まれるように消えてしまいます。そんな言葉が歌詞の中にあると、なおさら「ああ、歌い手は心の中にある人には二度と会えないんだろうな」という予感が強まってしまって悲しいですね。
そんなカムパネルラとの別れの舞台となるのが、彼が「そらの孔」と表現する「石炭袋」、英語のコールサックという呼び方でもおなじみの暗黒星雲です。その闇のイメージが、銀河鉄道の座席に座っていたはずのカムパネルラが忽然と姿を消してしまうことと重なります。
なぜ、こんなことを言いだしたかというと、ちょうど今年のノーベル物理学賞がブラックホールの研究者たちに授与されることになったことで思い出したためです。しかもそのうち2人は、天の川銀河の中心部に超大質量ブラックホールがあることを突き止めた天文学者だったからです。
関連ニュース:ブラックホールの理論・観測研究にノーベル物理学賞 – アストロアーツ
宮沢賢治が現代に生きていて「銀河鉄道の夜」を書いたとしたら、いて座A*(銀河中心核のブラックホールが潜んでいるとされる領域)を物語の終点に選んだだろうなという気がしてなりません。もちろん、さだまさし氏が言うように「手の届かない頭上」にいらっしゃるので、かなわぬ妄想ですが。
今回使用したソフトウェア
本記事では、楽曲の考察に天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータ11」を使用しました。
「ステラナビゲータ11」は、今夜の星空や星座、惑星の様子はもちろん、過去から未来までの20万年間に起こるあらゆる天文現象をリアルに再現できる、Windows用天文シミュレーションソフトウェアです。
おわりに
シリーズ「天文×さだまさし」(全4回)お楽しみいただけたでしょうか。当初は4~5曲の予定だったのですが、いろいろ聴き直しているうちに全20曲+α のボリュームになってしまいました(詳しくは「余談です」へ)。
本当は、まだもう少し思い至っている楽曲があります。実は、この記事を読んだ方から、完全に私の射程圏外にある「提供曲の○○も!」といった情報も頂きました。なんとも、ありがたいことです。本シリーズとしては、ここで一区切りとなりますが、今後も「おっ!」と気づいたら個人的にメモを貯め込んでおこうと考えています。いつの日か番外編も…?
さてさて、マニアックかつ長い記事にも関わらず、全4回に渡りお読みいただきまして、ありがとうございました。またできるだけ近いうちに、お互い元気で、どこかでお会いしましょう!
ではでは。
関連情報
・さだまさしオフィシャルサイト
・ステラナビゲータ11 – StellaNavigator11
・ブラックホールの理論・観測研究にノーベル物理学賞 – アストロアーツ