星の名前、決めちゃいました(1)

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アストロアーツの廣瀬と申します。

昔はアストロアーツのウェブサイトを編集したりしてましたが、しばらく仕事をお休みして、ヨーロッパへ留学するなどして天文学の歴史を研究してました。こんな本も書いたりしてます。

2020年にアストロアーツに帰ってきて、事業企画部で天文学・天文文化の未来に貢献することを目指して色々なプロジェクトに関わっております。もちろん、天文学の過去を覗いてきた経験を活かした仕事もしているので、このブログで時々そんな話題を紹介したいなと考えてます。

最初にお話ししたいのは星(恒星)の名前について。こと座の「ベガ」とか、わし座の「アルタイル」とかですね。星の「固有名」とも呼ばれますけど、これが正式に決まったのがほんの数年前だったってご存じでしたか?

天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータ」でベガとアルタイルを表示しました。天の川を挟んで輝く2星は、七夕伝説の織姫星と彦星でもあります。

「いやいや、ずっと昔からベガやアルタイルと呼んでたのはなんだったの?」って思いますよね。もちろん、名前自体はずっと昔からあったんですが、世界中の天文学者で作る国際天文学連合(IAU)では特に「この星はベガと呼びなさい」と決めていたわけではありません。乱暴な言い方をすれば、「みんなベガって呼んでるからベガってことにしておこう」という状態がずっと続いてたんです。

ちなみにIAUが発足したのは1919年、それからわずか3年後には「こと座」や「わし座」などの星座名がIAUで採択されています。IAUが恒星の固有名を初めて認めたのは2015年なので、ずいぶんと遅いですよね。

星を指すときは「こと座α(アルファ)」とか「わし座53番」みたいな符号も使えるので、「正式な固有名」がなくても実用上で困る人はほとんどいませんでした。ただ、「星の命名権」を売るビジネスが横行してしまったのでIAUでは頻繁に「その名前、うちでは認めてないから!」と主張しなければならなかったようです。

一方で、彗星や小惑星の名前、さらには地球以外の天体上の地名もIAUが正式に認可して管理してきました。たとえば大望遠鏡でなければ見られない火星の小っちゃな衛星フォボスや、そのフォボスに探査機を派遣しなければ分からない小さな小さなクレーターの名前にはIAUのお墨付きがあるのに、誰もが目にする夜空の1等星には正式な名称がない、というややこしい状態が続いていたのですね。

じゃがいもみたいなクレーターだらけのフォボスと火星をステラナビゲータのフライトモードでパシャリ。正直、起動してみるまでフォボスみたいなマイナーな天体(ごめんなさい)の地形を表示できるとは思ってませんでした。弊社の製品すごいな。

そんな中、太陽系外惑星、つまり太陽以外の恒星の周りで見つかった惑星にも正式な名前をつけよう、というキャンペーンがIAUの主導で2015年に実施されました。周りの惑星に名前を付けるのなら中心の恒星にも固有名を認めましょうということになり、それなら惑星が見つかってない恒星についても正式に名前をつけておこうという流れができて、2016年にはベガやアルタイルを含む明るい恒星の固有名がひととおりIAUで登録されたのでした。

おっと、「ベガ」や「アルタイル」が登録された、というと不正確ですね。IAUが決めたのは VegaAltair というアルファベットでの表記です。それをカタカナでどう書き表すかまでは決めてません。まあ、IAUは国際的な組織ですからね。で、今のところ日本の学術組織で固有名のカタカナ表記はちゃんと議論されてないので、Vega を「ベガ」と書いても「ヴェガ」と書いても、何ならより英語っぽく発音して「ヴィーガ」にしても許されるということになります。

とはいえ、アストロアーツとしては星の名前を適当に表記するわけにもいきません。しかも、IAUが採択した固有名の中には、マイナーすぎてカタカナで表記されたことがないものや全く新たにつけられたものもあります。それらを含め、IAUが決めたアルファベットの恒星名をすべてカタカナに直す必要がありました。というわけで、私がその仕事をやることになったのです。

英単語と同じで、アルファベットを見ただけでは発音は判断できません。語源を調べて、言葉の移り変わりや日本での使われ方も確認して決めてます。

「天文の歴史」というニッチな知識が役に立つ職場はそうそうありませんね!

そうやって決めたカタカナ表記はステラナビゲータなどにも使われてたりするわけですが、次回からはその舞台裏を、恒星名の歴史も振り返りながら語ってみます。

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